汗・菌・匂いの評価を分ける
デオドラントと制汗剤は同じ測定ではない
日常会話では、匂いを抑える製品を広く「デオドラント」と呼ぶことがあります。一方、研究では、発汗量、腋窩の細菌数、菌の構成、匂いの強さ、快・不快、香りの印象が別々に測られます。製品名だけから、どの指標が変わったのかを決めることはできません。
汗と皮膚微生物の体臭という補助記事で扱うように、腋窩臭は汗の量だけで決まらず、分泌物が微生物によって揮発性の匂い分子へ変換される経路があります。制汗と消臭、消臭とマスキングを分けると、研究と商品の説明を混同しにくくなります。
腋窩の匂いと細菌数を調べた古い研究
Leydenらは229人の腋窩を量的に調べ、刺激的な体臭と酸っぱい匂いの違い、皮膚細菌の構成を比較しました。典型的な体臭のある人では好気性ジフテロイドが多く、腋窩にいる細菌をアポクリン汗へ加える実験では、菌の種類によって典型的な体臭や汗様の匂いが生じました。
この研究は、匂いと微生物の関係を考える土台になりますが、現在販売されている製品の効果や、個人の体臭を菌数だけで予測する検査ではありません。匂いの強さには、分泌物、菌の種類、衣類、時間、評価方法が重なります。
製品をやめる・使うと腋窩の菌叢は変わる
Urbanらは、デオドラントや制汗剤の習慣的な使用者と、普段使わない人を比較し、さらに製品使用を止めたり、制汗剤を再び塗ったりして腋窩の細菌を調べました。使用を止めた後は培養可能な細菌密度が増え、制汗剤を塗った後は細菌密度が大きく下がりました。長期使用者では、制汗剤とデオドラントで細菌の豊富さや構成にも違いがありました。
ただし、この研究の中心は菌数と菌叢で、日常の匂いの強さを全員について直接判定したものではありません。「菌叢が変わった」ことを、そのまま「匂いが消えた」「肌に良い」「悪い菌だけがいなくなった」と読み替えないことが必要です。
匂いを直接評価した製品研究は、製品ごとの結果
Traupeらは、ポリクオタニウム-16を含むロールオン、24時間保護をうたう市販デオドラント、塩化アルミニウム系の比較製品を用い、1・4・8・24・48時間後の細菌数と、24・48時間後の訓練された評価者による直接嗅ぎの匂い強度を調べました。特定の比較では匂い評点と細菌数が低くなりましたが、同じ研究内でも比較製品により差が異なり、48時間後に匂いの有意差がない組み合わせもありました。
この研究の著者はBeiersdorfの研究開発部門に所属しています。結果はその処方、比較対象、評価時点、評価者に関するものです。成分名からすべてのデオドラントや制汗剤の優劣を決めたり、長期的な健康効果へ広げたりしません。
45人の女性を測った一回使用の官能評価
Shahtalebiらは、健康な女性45人を4群に分け、セージ抽出物を濃度別に含むスティック製品またはプラセボを一度だけ使用して、使用前と2・4・8時間後の腋窩臭を評価しました。セージ抽出物を含む3群では、プラセボより匂い評点が小さくなりました。
これは匂いを直接評価した比較試験ですが、平均年齢61.5歳の特定対象、1回使用、8時間まで、特定の抽出物と処方の結果です。家庭で使うすべての製品、若い人、長期使用、汗量、衣類への移り香へそのまま一般化できません。
腋臭症の患者研究と製品評価は分けて読む
Wuらの2026年研究は、デオドラント製品の比較試験ではなく、臨床的に腋臭症と診断された30人と健康な対照30人の腋窩・腸内微生物を比較したケースコントロール研究です。腋窩の16S rRNA解析では、腋臭症群で Staphylococcus 属、Staphylococcus epidermidis、S. hominis などの相対量や群集構造に差が報告されました。
同研究では8人が1回のマイクロ波治療を受け、治療前と3か月後の試料も比較しました。腋窩の微生物構造や一部の菌の変化は、制汗剤・デオドラントの効果、家庭の製品選び、腸内細菌を変えれば体臭が改善するという根拠とは別です。著者らも、腸由来の代謝物が腋窩臭を引き起こす因果関係は直接検証されていないと記載しています。
ワキの匂いの強さには遺伝的な側面もあります。耳垢の湿り気と腋窩汗の成分に関わるABCC11遺伝子の話は、耳垢の湿りとABCC11遺伝子の関係の補助記事で、研究の対象と個人差の読み方を整理しています。
デオドラント・制汗剤の成分と作用機序を幅広く整理した2025年の総説もあります。この総説は、体臭形成を「無臭前駆体の小胞分泌→細菌内への取り込み→匂い代謝酵素による変換」の3段階に分け、従来の制汗(アルミ塩)、抗菌、マスキング、消臭の各アプローチを段階ごとに分類したうえで、次世代デオドラントとしては各段階に特異的に作用する成分(例: ABCC11ポンプ阻害候補やAMRE阻害候補)が提案されていることを紹介しています。
読むときの注意は三つあります。第一に、これは複数研究を統合した総説であり、新しい一次データではありません。第二に、挙げられている「次世代」戦略の多くは研究段階の提案で、市販製品として実用化されたわけではありません。第三に、総説が指摘する既存成分への安全性の懸念は、個別製品の安全性判定や使用中止の勧告ではなく、今後の研究課題の整理です。家庭での製品選びは表示された使用方法を守ることが前提です。
使ったときの変化を記録するなら
- 汗:濡れやすさ・発汗のタイミングと、匂いの強さを別に記録する。
- 発生場所:肌、衣類、洗濯物、香りの残りを分ける。
- 製品:製品名だけでなく、塗布量、使用時刻、洗浄からの経過時間を残す。
- 評価:自分の鼻だけでなく、距離・換気・時間・評価者が変われば別条件として扱う。
製品は表示された使用方法を守り、塗った後に赤み、かゆみ、痛み、腫れなどが続く場合は使用を重ねて自己判断せず、皮膚科などへ相談します。急に変わった匂いだけから、清潔さ、人格、健康状態を決めつけないことも大切です。
参考文献
- Leyden JJ, McGinley KJ, Hölzle E, Labows JN, Kligman AM. The microbiology of the human axilla and its relationship to axillary odor. Journal of Investigative Dermatology. 1981;77(5):413–416. PubMed PMID 7288207
- Urban J, Fergus DJ, Savage AM, et al. The effect of habitual and experimental antiperspirant and deodorant product use on the armpit microbiome. PeerJ. 2016;4:e1605. PubMed PMID 26855863
- Traupe B, Fölster H, Max H, Schulz J. Effective axillary malodour reduction by polyquaternium-16-containing deodorants. International Journal of Cosmetic Science. 2017;39(2):141–148. PubMed PMID 27506727
- Shahtalebi MA, Ghanadian M, Farzan A, et al. Deodorant effects of a sage extract stick: Antibacterial activity and sensory evaluation of axillary deodorancy. Journal of Research in Medical Sciences. 2013;18(10):833–839. PubMed PMID 24497852
- Wu X, Li M, Xu Y, Liu X, Gao Z, Jiang X, He J, Wu Y, Wu C. Axillary and gut microbiota characteristics in axillary bromhidrosis patients and the effect of microwave therapy: a case-control study. Frontiers in Microbiology. 2026;17:1769465. PubMed PMID 42164666 DOI 10.3389/fmicb.2026.1769465 Frontiers full text
- Son HT, Choi HS, Cho SS, Park DH. Human Body Malodor and Deodorants: The Present and the Future. International Journal of Molecular Sciences. 2025;26(21):10415. DOI: 10.3390/ijms262110415. DOI · PubMed PMID 41226454
菌叢、細菌数、官能的な匂い評点、製品処方を分けて扱っています。市販製品の一律な優劣、健康効果、個人の体臭診断を示す資料ではありません。
